ヒューマノイドはどうやって動くのか?主要6機種のソフトウェア戦略を読み解く
はじめに
ヒューマノイドの性能差を決めるのは、ハードウェア以上にソフトウェアです。モーター、減速機、センサーといった部品は各社で大きく変わりませんが、それを「どう動かすか」の考え方は企業ごとに大きく異なります。
本記事では、Tesla Optimus、Figure、Unitree(G1・H1)、Fourier、Boston Dynamics Atlasの主要6機種を取り上げ、各社のソフトウェア戦略を整理します。専門知識がなくても理解できるよう、ロボットが動く仕組みの基本から順に解説します。
ロボットを動かす2つのアプローチ
ロボットの動きを作る方法は、大きく「モデルベース制御」と「学習ベース(AI)」の2つに分かれます。
1. モデルベース制御(古典的制御) エンジニアが物理法則を数式で記述し、ロボットはそれに基づいてリアルタイムに動きを計算します。腕の重さ、関節の可動範囲、重心のバランスなどをすべてモデル化します。動作は正確で予測可能ですが、想定外の状況への適応は苦手です。
2. 学習ベース(AI) ロボットがデータから動きを学習します。人間の操作を真似したり、シミュレーション上で試行錯誤を繰り返したりして、動き方を身につけます。新しい物体や作業に柔軟に対応できる一方、挙動の予測が難しいという課題があります。
人間に例えると、無意識に働く反射やバランス感覚がモデルベース制御、経験を通じて新しい料理を覚えるのが学習ベースに近いイメージです。
「AIか古典制御か」の二択ではない:ロボットの3層構造
ここで重要なのは、ロボットのソフトウェアが「AIか古典制御か」の二択ではないという点です。ヒューマノイドの制御は、一般に次の3つの層で構成されています。
- 上位層「何をするか」:「コップを取る」といったタスクを判断する層です。言語モデルや画像認識が活躍します。
- 中間層「体をどう動かすか」:バランスを保ちながら、どの関節をどの順番・角度で動かすかを決める層です。AIと古典制御のどちらも使われます。
- 下位層「モーターを動かす」:各関節のモーターを指令どおりの角度やトルクに制御する層です。エンコーダーの情報をもとに毎秒数千回の補正を行います。この層は、AI中心の企業であっても古典制御が担っています。
つまり「AI型ロボット」とは、上位層と中間層をAIに任せたロボットのことです。AIが動きを決め、古典制御がそれを実行する。各社の違いは、どこまでをAIに任せるかにあります。
AIはどうやって動きを学ぶのか
AI制御の中身はニューラルネットワークです。カメラ映像と全関節の現在位置を入力として受け取り、各関節の目標位置を出力します。これを毎秒何十〜何百回も繰り返し、出力された指令を下位層のモーター制御が実行します。
ニューラルネットワークが「何を出力すべきか」を学ぶ方法は、主に2つあります。
模倣学習(Figure、Teslaなど) オペレーターがVRヘッドセットやモーションキャプチャースーツを装着し、ロボットを遠隔操作して作業を実演します。カメラ映像と関節の動きをすべて記録し、数千回分のデータから「この状況ではこう動く」という対応関係をAIに学習させます。
強化学習(Unitreeなど、特に歩行制御) シミュレーション上の仮想ロボットに、何百万回も試行錯誤させます。転ばずに前進すれば報酬を与え、転倒すれば減点します。最初はぎこちない動きでも、徐々に安定した歩行を獲得します。学習済みのモデルは実機に移植されます。これを「Sim-to-Real」と呼びます。
具体例:FigureのHelix FigureのHelixは、AIを2つの役割に分けています。状況と指示を理解する「考える」モデルが毎秒数回更新され、その意図を滑らかな関節指令に変換する「動かす」モデルが毎秒約200回動作します。人間の「判断」と「運動」の分業に近い構造です。
主要6機種のソフトウェア戦略
各社の方針は、AIと古典制御のどちらに重心を置くかで明確に分かれます。

補足すると、TeslaとFigureは「AIに任せる範囲を最大化する」戦略、Fourierは「安全性を最優先する」戦略、Atlasは「古典制御の完成度にAIを上乗せする」戦略と整理できます。Unitreeは、制御方式そのものよりも、プラットフォームを開放して研究コミュニティを取り込む戦略が特徴的です。
Tesla Optimus:自動運転のAI資産をそのまま転用
Optimusの最大の特徴は、Teslaが自動運転(FSD)のために築いてきた資産を丸ごと流用している点です。ニューラルネットワークの構造、データ基盤、シミュレーション環境、分散学習の仕組みまで、車で培ったものをロボットに転用しています。
認識はカメラ映像が中心で、Transformer型のニューラルネットワークを用いた「エンドツーエンド学習」を重視しています。エンドツーエンドとは、カメラ入力から動作出力までを、人が書いたルールではなく一つの学習モデルでつなぐ考え方です。
強みは圧倒的なデータ規模です。多数のロボットから集めたデータで全体のモデルを改善し続ける「フリート学習」は、数百万台の車で実績のある手法です。一方、ソフトウェアは完全に自社内で閉じており、外部の研究者や企業が手を加えることはできません。
ポイント:Teslaは「データと計算資源の量」で勝負する戦略です。
Figure 03:言葉を理解して動く「AIファースト」
Figureは、自社開発のAIシステム「Helix」を中核に据えています。HelixはVLA(Vision-Language-Action)モデルと呼ばれるもので、「見る」「言葉を理解する」「動く」を一つのAIで処理します。これにより「冷蔵庫から飲み物を取って」といった自然な言葉の指示を、そのまま実際の動作に変換できます。
従来のロボットは、作業ごとに動作をプログラムする必要がありました。Figureは代わりに、AIが状況の意味を理解し、初めて見る物体や作業にも対応できる「汎用性」を重視しています。
その学習を支えるのが、遠隔操作と模倣学習です。人間がロボットを操作して作業を実演し、その記録からAIがスキルを習得します。前述のとおり、Helixは「考える」モデルと「動かす」モデルの2段構成になっています。
ポイント:Figureは「言語理解と汎用性」で勝負する戦略です。
Unitree G1:研究者に開かれたプラットフォーム
G1は、誰でも使えるオープンな研究用ヒューマノイドとして設計されています。ソフトウェアは、ロボット開発の標準的なオープンソース基盤であるROS2をベースにしています。
最大の特徴は開放性です。モーターの低レベル制御、センサーのデータ、開発ツールまで研究者に公開されています。そのため、強化学習、模倣学習、独自の制御アルゴリズムなど、研究者が自由に実験できます。出荷時には学習ベースの歩行制御が搭載されていますが、それを丸ごと置き換えることも可能です。
比較的手頃な価格もあって、大学や研究機関で急速に普及しました。コミュニティ主導のソフトウェア開発も活発で、G1はヒューマノイド研究の「標準機」になりつつあります。スマートフォンにおけるAndroidのような立ち位置と言えるでしょう。
ポイント:Unitreeは制御方式ではなく「開放性とエコシステム」で勝負する戦略です。
Unitree H1:強化学習による俊敏な歩行
H1はG1と同じROS2ベースの環境を共有していますが、目的が異なります。H1が重視するのは、高性能な歩行と動的なバランス制御です。
ソフトウェアの中心は強化学習です。シミュレーション上で歩き方を学習させる「歩容生成」、押されたりつまずいたりしても体勢を立て直す「外乱からの回復」、そしてシミュレーションで得た能力を実機に移す「Sim-to-Real」に重点を置いています。
H1は汎用的な研究機というより、全身を使った俊敏な運動能力を示すための機体です。強化学習でヒューマノイドの歩行を実現した代表例として知られています。
ポイント:H1は「AIで運動性能の限界に挑む」機体です。
Fourier GR-1/GR-2:人に寄り添う安全第一の設計
Fourierは、もともとリハビリロボットや外骨格(装着型ロボット)を手がけてきた企業です。その経験が、ヒューマノイドのソフトウェア方針にも色濃く反映されています。
同社が優先するのは、激しい運動性能や大規模なAIではなく、「柔らかい制御(コンプライアンス制御)」と人との安全な接触です。柔らかい制御とは、人や物にぶつかった際に力を受け流し、相手を傷つけないようにする制御を指します。ソフトウェアは、全身制御、力を感知した接触制御、動作計画、認識の各機能をROSベースで統合しています。
近年は認識や作業実行に機械学習も取り入れていますが、全体としては基盤モデル中心ではなく、制御中心の設計です。安全性と人との関わりが重要な医療、リハビリ、サービス分野に特に適しています。
ポイント:Fourierは「安全性と人との共存」で勝負する戦略です。
Boston Dynamics Atlas:古典制御の集大成にAIを融合
Atlasは、モデルベース制御の最も成熟した例です。その卓越した運動性能は、以下のような高度な制御技術の組み合わせで実現されています。
- 全身制御:手足や胴体を個別ではなく、一体として協調させる制御
- 逆動力学:目標とする動きから、各関節に必要なトルクを逆算する計算
- 階層的最適化:「転ばない」を最優先に、次に「作業をこなす」というように、優先順位をつけて動きを最適化する手法
- モデル予測制御(MPC):数手先の動きを予測し、その時点で最適な動作を計算し続ける手法。将棋で先を読みながら一手を決めるイメージです
OptimusやFigureがデータから学ぶのに対し、Atlasの能力の多くは正確な物理モデルとリアルタイムの最適化計算から生まれています。
ただし近年は、NVIDIAのシミュレーション環境「Isaac」やヒューマノイド向け基盤モデル「GR00T」を活用し、学習型の制御も取り入れ始めています。古典制御の堅牢さとAIの適応力を組み合わせたハイブリッド型への移行が進んでいます。
ポイント:Atlasは「制御の完成度」を土台に、AIで柔軟性を加える戦略です。
業界はハイブリッド型へ収束している
アプローチは異なっても、業界全体は同じ方向に向かっています。それが、古典制御とAIを組み合わせたハイブリッド型です。
- 古典制御が担う領域:転倒しない、人にぶつからないといった安全性と安定性
- AIが担う領域:物体の認識、把持、作業内容の判断といった柔軟性が求められる部分
象徴的なのがBoston Dynamicsです。古典制御の頂点に立つ同社でさえ、学習型制御の導入を進めています。逆に、AI中心の企業も下位層では古典制御に依存しています。両者の境界は、今後さらに曖昧になっていくでしょう。
まとめ
- ヒューマノイドの制御は「何をするか」「体をどう動かすか」「モーターを動かす」の3層構造
- AI中心の企業でも、モーター制御の最下層は古典制御が担っている
- Teslaはデータ規模、Figureは言語理解、Unitreeは開放性、Fourierは安全性、Atlasは制御の完成度で勝負している
- 業界全体は、古典制御の安定性とAIの柔軟性を組み合わせたハイブリッド型へ収束しつつある
ヒューマノイドを評価する際は、外見や動画のインパクトだけでなく、「どの層をAIに任せ、どの層を古典制御で固めているか」に注目すると、各社の戦略と将来性がより明確に見えてきます。
ご質問やご相談は、お問い合わせからお気軽にどうぞ。